患者さんの「この人は苦手」という感情、どう向き合えばいい?

患者さんへの苦手意識は誰でも持つもの。その感情を否定せずに認め、ケアの質を保つための考え方と現場で使えるコミュニケーション実践例を解説します。

「苦手だと思ってしまう自分」を責めないで

「この患者さん、どうしても苦手だな……」と感じたことがある看護師さんは、決して少なくないはずです。でも多くの場合、そう感じた瞬間に「プロとして失格なんじゃないか」「こんな気持ちを持ってはいけない」と自分を責めてしまいます。

まず大前提として伝えたいのは、苦手意識そのものは自然な感情だということです。人間である以上、相性の合わない相手や、対応に困る言動に対してネガティブな感情を抱くことはごく普通のこと。看護師も例外ではありません。問題なのは苦手意識を持つこと自体ではなく、その感情にどう対処するか、そしてケアの質にどう影響させないかという部分です。

この記事では、対応が難しいと感じる患者さんへの苦手意識を「否定せずに向き合う」ための考え方と、現場で使えるコミュニケーションの実践例を紹介します。20〜30代の看護師さんがリアルに直面しやすいシーンを念頭に置きながら、一緒に考えていきましょう。

「苦手な患者さん」にはどんなタイプがいる?

一口に「苦手な患者さん」といっても、そのパターンはさまざまです。よく聞かれるのは以下のようなタイプです。

  • 過度に要求が多い・クレームが多い:ナースコールの頻度が非常に高く、少しでも待たされると強い言葉で責められる。
  • 暴言・暴力的な言動がある:言葉がきつく、時に怒鳴ったり、手が出ることもある。
  • 治療に非協力的:内服拒否、安静指示を守らないなど、医療的な関わりが難しい。
  • ネガティブな発言が多い:常に不満や愚痴が続き、関わるたびにエネルギーを消耗してしまう。
  • 特定の看護師にだけ態度が違う:自分にだけ当たりがきつく、他のスタッフとの扱いの差が辛い。

これらのパターンは、患者さんの性格だけでなく、疾患・疼痛・不安・孤独感・過去の医療体験など、さまざまな背景から生まれていることが多いです。それを頭で理解していても、毎日関わっていれば疲弊してしまうのは当然のこと。「わかっているけど、それでも辛い」という感覚を持つことは、決して弱さではありません。

感情を「否定せず・流されず」認知を切り替えるコツ

苦手意識を「なかったこと」にしようとすると、かえってストレスが蓄積されます。大切なのは感情を認めたうえで、その感情に引きずられないようにする「認知の切り替え」です。

① 感情に名前をつけて距離をとる

「苦手だな」と感じたとき、その感情を頭の中で一度言語化してみましょう。「私は今、この患者さんの言動に対してストレスを感じている」と言葉にすることで、感情を少し客観視できるようになります。心理学的には「ラベリング」と呼ばれる手法で、感情の強度を和らげる効果があるとされています。

② 「患者さんが悪い人」ではなく「患者さんも困っている」と捉えてみる

攻撃的な言動の裏には、コントロールできない不安や痛み、孤立感が隠れていることがあります。「なぜこの人はこういう行動をするのだろう?」と一歩引いて考えてみると、「この人も今、追い詰められているのかもしれない」という視点が生まれることがあります。共感とは「相手に同意すること」ではなく、「相手の立場を想像しようとすること」です。この切り替えが、関わり方を少し楽にしてくれる場合があります。

③ 「完璧なケア」より「今できるケア」を目標にする

苦手な患者さんに対して「もっとうまくやれたはずだ」と自分を追い詰めてしまう看護師さんも多いです。でも、すべての患者さんに同じ質のコミュニケーションを提供し続けることは、人間には難しい。「今日のケアとして何が必要か」を最低限クリアすることを目標に設定し直すだけで、精神的な負担がぐっと軽くなることがあります。

現場で使えるコミュニケーション実践例

認知の切り替えができたとしても、実際の関わり方に困ることは続きます。ここでは、具体的なシーンとともに使えるコミュニケーションの例を紹介します。

【シーン1】クレームや怒りをぶつけてくる患者さんへ

まず大切なのは、反論や言い訳を最初に返さないことです。感情が高ぶっているときに論理を返しても火に油を注ぐ可能性があります。

  • 「おつらい思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」と気持ちを受け止める言葉を先に伝える。
  • 「少しお話を聞かせていただけますか?」と、患者さんが「聞いてもらえる」と感じられる場を作る。
  • 事実関係の説明や謝罪の範囲については、その場で一人で判断せず、必要に応じて上司や先輩と連携する。

一人で抱え込まないことが非常に重要です。

【シーン2】ナースコールが頻繁で対応に追われる患者さんへ

頻繁なコールの背景には、「不安を一人で抱えている」「放置されている感覚がある」というケースも少なくありません。

  • 「何時頃にまた様子を見に来ます」と具体的な見通しを伝えることで、待てる感覚を持ってもらいやすくなることがあります。
  • 「何かご不安なことはありますか?」と一度丁寧に聞く時間を作ると、その後のコール頻度が落ち着くこともあります。
  • チームで情報共有し、「この患者さんには○○が不安要素」というアセスメントをスタッフ全体で持つようにする。

【シーン3】自分にだけ態度が違うと感じる患者さんへ

これは精神的なダメージが大きいシーンの一つです。「なぜ自分だけ?」という感覚は、自己否定につながりやすい。

  • 先輩や同僚に正直に相談してみましょう。「気にしすぎ」と言われたとしても、まず話すこと自体がストレス発散になります。
  • 担当を一時的に変えてもらうことも、チームとして検討できる選択肢の一つです。無理に一人で関わり続けることが最善ではない場合もあります。
  • 「この患者さんのこういう面は対応できている」という自分の強みを振り返り、自分を小さく肯定することも大切です。

チームで共有することが「個人の限界」を救う

苦手意識は一人で抱えると、どんどん大きくなっていきます。逆に、チームで共有できると「自分だけじゃなかった」「こんな工夫があるんだ」という気づきが生まれ、少し気持ちが楽になることがあります。

カンファレンスや申し送りの場で「この患者さんへの関わりで困っていることがあって……」と口火を切ることは、決して弱音ではなく、チームケアの質を高める大切なコミュニケーションです。チームとして「この患者さんへの統一した対応方針」を持てれば、個人への負担も分散されます。

また、もし職場の中にプリセプターや相談しやすい先輩がいるなら、早めに声をかけてみることをおすすめします。経験のある看護師ほど「苦手な患者さんへの向き合い方」を試行錯誤してきているので、具体的なアドバイスをもらえることも多いはずです。

まとめ:「苦手」と感じてもいい。大切なのはその先の選択

看護師として「この患者さんが苦手だ」と感じることは、けっして恥ずかしいことでも、プロ失格なことでもありません。その感情を正直に認めたうえで、どう対処するかを考えていくことが、長くこの仕事を続けていくうえでとても大切なことです。

感情を押し殺して無理をし続けると、バーンアウトや離職につながるリスクがあります。自分の感情を大切にしながら、できる範囲でベストなケアを提供していくというバランス感覚こそが、プロフェッショナルとしての本当の姿ではないでしょうか。

「苦手だと感じている自分」を責めるのではなく、「その感情とどう付き合うか」を日々少しずつ学んでいく。そんな視点で、今日からの現場に臨んでみてください。あなたの感情も、あなた自身も、大切にしていいんです。

関連記事