「目指したい先輩がいない」という悩みは、あなただけじゃない
「この人みたいになりたい」と思える先輩が周りにいない――そんな悩みを抱えている看護師は、実はとても多いです。新人時代は目の前の業務を覚えることで精いっぱいだったけれど、3年目・5年目と経験を積むにつれて、ふと立ち止まって考え始めることがあります。「自分はこの先、どんな看護師になりたいのだろう?」と。
でも職場を見渡すと、ワークライフバランスが取れているように見えない先輩、専門性を深めるよりも慣習に従うだけになっている上司、急がしさを理由にキャリアの話を一切しない環境……。「ここに自分の未来はないかもしれない」という閉塞感を覚える人も少なくありません。
しかし、ロールモデルが「職場にいない」ことと、ロールモデルが「この世にいない」ことはまったく別の話です。視野を少し広げるだけで、あなたが共鳴できる看護師像は必ず見つかります。この記事では、職場の外にキャリアの軸を見つけるための具体的な手順を、ステップごとに紹介していきます。
まず「自分がなりたくない看護師像」を書き出してみる
ロールモデルを探す前に、まず自分の内側を整理することが大切です。「理想の先輩がいない」と感じているとき、その感覚の裏には「こういう働き方はしたくない」という気持ちが隠れていることがほとんどです。
紙でもスマホのメモでも構いません。次のような問いに答えてみてください。
- 職場の先輩・上司を見ていて「これはちょっと……」と感じる場面はどんなときか
- 5年後・10年後、絶対にこうはなりたくないと思う看護師像はどんなものか
- 今の職場環境で「当たり前」とされているけれど、自分には納得できていないことは何か
「なりたくない像」が明確になると、その反対側に「自分がなりたい像」の輪郭が浮かび上がってきます。これがあなた独自のキャリア軸の出発点です。理想を上から押しつけられるのではなく、自分の違和感から掘り起こすこのプロセスは、後で外部のロールモデルと出会ったときに「この人だ」と気づく感度を高めてくれます。
学会・研修・勉強会で「職場外の看護師」と出会う
職場の人間関係が閉じているように感じるなら、意識的に「外の空気」を吸いに行きましょう。看護師がロールモデルを見つける場として、まず活用してほしいのが学会や研修、地域の勉強会です。
日本看護協会をはじめ、各専門領域の学会は年間を通じてさまざまな大会や研修を開催しています。オンライン参加が可能なものも増えており、夜勤明けや休日を使って参加しやすくなっています。こうした場では、異なる施設・異なるキャリアパスを歩んできた看護師たちが一堂に集まります。
学会発表をしている中堅看護師の話を聞いたとき、「同じ看護師でもこんな働き方があるのか」と視野が一気に広がった、という声は多くの看護師から聞かれます。発表内容だけでなく、その人がどんな言葉で看護を語るか、どんな問いを持っているかを観察するだけで、自分が共鳴できるキャリア像のヒントが得られることがあります。
参加するだけでなく、懇親会や休憩時間に声をかけてみることも大切です。最初は勇気がいるかもしれませんが、「発表を聞いて共感した部分があって」と伝えるだけで、多くの人は喜んで話してくれます。一度つながった縁は、その後の情報交換やキャリア相談に発展することも少なくありません。
SNSで「リアルな看護師のキャリア」を観察する
日常的に使えるツールとして、SNSの活用も非常に有効です。X(旧Twitter)やInstagram、noteなどには、自分のキャリアや働き方を発信している看護師が数多くいます。専門看護師・認定看護師として活躍している人、海外で働いている人、起業している人、ライターや講師として活動している人……職場では絶対に出会えないような多様なキャリアを知ることができます。
SNSを活用するときのポイントをいくつか挙げます。
- 「フォローするだけ」から始めてOK:最初は発信しなくても構いません。まず情報収集・観察の場として使いましょう。気になる投稿をブックマークしておくと、後で振り返ったときに自分の興味の傾向が見えてきます。
- 「この人の考え方が好き」という感覚を大切にする:フォロワー数や肩書きではなく、投稿の内容や言葉に共感できるかどうかで選ぶことが大切です。あなたが「こう考えたい」と思える看護観を持っている人が、あなたにとってのロールモデル候補です。
- コメントやリプライで少しずつ関わる:「いいね」だけでなく、一言コメントを送ってみましょう。双方向のやりとりが生まれると、より深い情報や考え方に触れやすくなります。
- 情報の質を見極める習慣をつける:SNSには不正確な医療情報や誇張した体験談も含まれます。参考にする際は批判的な視点も忘れずに。
SNSで出会った看護師の発信が、資格取得を決意するきっかけになった、転職を考え直すきっかけになった、という話はよく耳にします。日常の隙間時間に使えるSNSは、キャリアの視野を広げるための強力なツールです。
オンライン・地域コミュニティで「仲間」を作る
ロールモデルは「目指す一人の人物」だけとは限りません。同じ悩みや志向を持つ仲間のコミュニティに属することで、互いが少しずつ成長し合う環境を作ることができます。
近年は看護師向けのオンラインコミュニティが増えています。Facebookグループ、Discordサーバー、SlackコミュニティなどのSNS系から、看護師専門のキャリア支援プログラムまで、形態はさまざまです。また、都道府県の看護協会が主催するキャリアラウンジや、地域の看護師有志が集まる勉強会など、リアルな場も活用できます。
こうしたコミュニティの良さは、「完成されたロールモデル」ではなく、「今まさに成長の途中にいる同世代・近世代の仲間」と出会えることです。「自分だけじゃないんだ」という安心感は、孤独感の強い職場環境にいるときほど大きな支えになります。
コミュニティを選ぶ際には、次のような点を確認するとよいでしょう。
- 参加者の雰囲気は自分に合っているか(愚痴の吐き出し場になっていないか、建設的な対話があるか)
- 情報の信頼性はどうか(医療職として責任ある発言が求められる場所か)
- 無料・有料のどちらであっても、継続的に関われる仕組みか
最初から深く関わろうとせず、まず「観察者」として参加してみることをおすすめします。自分にとって居心地のよい場所を、焦らず探してみてください。
「複数のロールモデル」を組み合わせて、自分だけのキャリア像を描く
ここまでさまざまな外部との接点を紹介してきましたが、最終的に大切なのは「一人の完璧なロールモデルを探すのをやめる」という発想の転換です。
キャリアを考えるとき、「この人のようになりたい」という一人の象徴的な人物を探し続けると、どこかで必ず行き詰まります。なぜなら、どんなに素晴らしい人でも、あなたのすべての価値観・生活状況・強みに一致する人は存在しないからです。
そうではなく、「この人の専門性の深め方は参考にしたい」「この人のワークライフバランスの考え方に共感する」「この人の患者さんとの関わり方が好き」というように、複数の人から「いいとこ取り」をする発想が有効です。これを「コンポジット(複合型)ロールモデル」と呼ぶこともあります。
具体的には、次のような整理をしてみてください。
- 専門性・スキル面で参考にしたい人:(学会や研修で出会った人など)
- 働き方・ライフスタイル面で参考にしたい人:(SNSで発信している人など)
- 人間関係・コミュニケーション面で参考にしたい人:(コミュニティで知り合った人など)
- 看護観・価値観面で共鳴する人:(書籍・インタビュー記事などで知った人など)
この4つを埋めていくと、「自分が目指すキャリア像」の骨格が見えてきます。最初は漠然としていても構いません。3ヶ月後、半年後に見直してみると、少しずつ解像度が上がっていくはずです。
まとめ:職場の外に出ることが、自分を見つける第一歩
「ロールモデルが全然いない」と感じている職場にいることは、確かにつらいことです。でもそれは、あなたの感度が高い証拠でもあります。現状に疑問を持ち、もっとよい看護師になりたいと思っているからこそ、今の環境への物足りなさを感じるのです。
職場という小さな池の中だけで答えを探そうとすると、どうしても息詰まります。でも、一歩外に出てみると、看護師という職業の可能性は想像以上に広がっています。学会・研修・SNS・コミュニティ……どれもハードルが高そうに見えて、実は今日からでも始められるものばかりです。
まず「なりたくない看護師像」を書き出すことから始めてみてください。そこから見えてくる自分の価値観が、あなたらしいキャリア軸の出発点になります。完璧なロールモデルは存在しなくていい。あなた自身が、あなたにとっての最良のロールモデルを「組み立てていく」プロセスを、ぜひ楽しんでみてください。