冬になると、なぜか心が重くなる
12月から2月にかけて、病棟の空気がどこか変わると感じたことはありませんか。日が短くなり、窓の外はいつも薄暗く、ナースステーションにいる時間の大半は蛍光灯の下。そして、エンドオブライフを迎える患者さんが増えるこの時期、「また今日も…」と胸が締めつけられる夜が続くことがあります。
「自分が弱いだけだ」「プロとして切り替えなければ」そう自分を叱咤しながらも、なぜか毎年冬になると気力が湧かない、朝起きるのがつらい、という経験をしている看護師は少なくありません。実はこれ、意志の弱さでも感情のコントロール不足でもなく、季節という外的要因が大きく関わっている可能性があります。この記事では、冬に看護師のメンタルが落ちやすい理由と、日常に取り入れやすいセルフケアを一緒に考えていきます。
看護師の冬が特別につらい理由:2つの季節的要因
① 日照不足とセロトニン不足
冬の日照時間は夏に比べて大幅に短くなります。さらに三交代・二交代のシフト勤務をしている看護師の場合、日中に外に出るタイミング自体がほとんどない、という方も多いのではないでしょうか。太陽の光を浴びる時間が極端に少なくなると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの分泌量が低下しやすくなると言われています。
セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分の安定・意欲・睡眠の質に深く関わっています。これが不足すると、気分が沈みやすくなる、疲れが取れない感じが続く、甘いものや炭水化物を無性に食べたくなる、といった変化として体に現れることがあります。「なんだか毎年冬になるとやる気が出ない」と感じている方は、もしかするとこのサイクルに入っているかもしれません。
② 多死期という、職業的な悲嘆の蓄積
医療・介護の現場では、冬季(特に1〜2月)に患者さんが亡くなる数が増える傾向があります。インフルエンザや肺炎の流行、気温低下による循環器系への負担など、複数の要因が重なるためです。看護師はそのたびに、患者さんとのお別れに立ち合い、ご家族を支え、記録を書き、次の患者さんのケアへと向かいます。
この「悲しみを完全に処理しきれないまま次に進む」繰り返しは、累積的な悲嘆(Cumulative Grief)と呼ばれ、じわじわとメンタルを消耗させます。「もっと何かできたのでは」という罪悪感、「また関係性を築いてまた失うのか」という予期的な悲しみ、それらが重なると、感情を麻痺させることで自分を守ろうとする反応も生まれます。無感覚になること自体が、心が限界に近いサインであることもあります。
今日からできる:セロトニンを意識したセルフケア
まず大前提として、セロトニン系のアプローチは「治療」ではなく「日常のコンディション管理」として位置づけることが大切です。症状が強い場合や日常生活に支障が出ている場合は、迷わず専門家(精神科・心療内科)に相談してください。ここで紹介するのは、あくまで普段の生活の中で試せるヒントです。
- 朝の光を10〜15分意識的に浴びる:夜勤明けの帰宅時や、日勤前の通勤途中でもOK。スマートフォンを見ながらでも、外の光を顔に当てることを意識するだけで変わることがあります。曇りの日でも屋外の光は室内の蛍光灯より格段に明るいため、窓際に出るだけでも効果が期待できると言われています。
- トリプトファンを含む食品を意識する:セロトニンの原料となるトリプトファンは、バナナ・大豆製品(豆腐・納豆・味噌)・乳製品・卵・ナッツ類などに多く含まれています。忙しい勤務中でも、朝食に豆乳バナナを飲む、休憩中にナッツをひとつまみ食べる、といった小さな工夫から始めてみてください。
- リズム運動を取り入れる:ウォーキング・ジョギング・ストレッチ・呼吸法など、一定のリズムを刻む運動はセロトニン神経を刺激すると言われています。「運動する時間がない」という方は、通勤時に一駅歩く、休憩中に深呼吸を5回する、といったミニマムなものでも積み重ねが大切です。
光療法という選択肢を知っておく
「冬になると毎年決まって落ち込む」という方に、近年注目されているのが光療法(ブライトライトセラピー)です。2500〜10000ルクス程度の強い人工光を一定時間浴びることで、体内時計やセロトニン・メラトニンの分泌リズムを整えるアプローチで、海外では季節性うつ(季節性感情障害/SAD)の補助的なケアとして活用されています。
市販の光療法用ライトボックスは通販でも購入可能で、価格帯も様々です。朝食を食べながら、またはメイクをしながら20〜30分程度使用するという使い方が一般的なようです。ただし、目の疾患がある方や薬を服用中の方は使用前に医師に相談することが重要です。また、あくまでも補助的なケアであり、医療機関での診断・治療に代わるものではありません。
「そこまで大げさにしたくない」という方は、まず起床後にカーテンを全開にして自然光を部屋に取り込む、天気のいい日は意識的に外に出るといったことから始めるだけでも、気分に変化を感じる方もいます。
悲しみをリセットする:意図的な気分転換の作り方
「気分転換しなよ」と言われても、疲弊しているときにその元気がないのが現実です。ここでは、消耗しているときでも取り入れやすい、小さなリセット習慣を考えてみましょう。
感情を「吐き出す」場を持つ
看護師は職業柄、感情を抑えて冷静でいることを求められます。しかし、その感情は消えたわけではなく、どこかに積み重なっています。信頼できる同僚との何気ない会話、日記に感情をそのまま書き出す(誰かに見せなくていい)、家に帰ってから泣く、といった「吐き出す行為」はとても重要です。泣くことで、ストレスホルモンが涙と一緒に排出されるとも言われています。「強くあらねば」と涙をこらえ続けることが必ずしも正解ではありません。
「何もしない時間」を意図的にスケジュールに入れる
オフの日についついSNSを眺め続けたり、家事を詰め込んだり、予定を入れすぎてしまう方は多いです。しかし脳は、何も刺激を受けない時間(DMN:デフォルトモードネットワーク活動時間)に思考を整理・統合するとされています。何もせず窓から外を眺める、ぼーっとコーヒーを飲む、ストレッチしながら天井を見る、といった「ぼんやりタイム」を意識的に作ることが、メンタルの回復につながることがあります。
自然・香り・音楽など「感覚」へのアプローチ
言語や思考を使わず、感覚に訴えるアプローチは、疲れた脳に優しいリセット法です。
- 公園や川沿いなど、自然の中を少し歩く(都市部でも小さな緑があれば十分)
- 好きなアロマや入浴剤を使ってゆっくりお風呂に入る
- 「何かをしながら」ではなく、音楽だけを聴く時間を作る
- 好きな温度の飲み物を、スマホを置いてゆっくり飲む
どれも「たったそれだけ?」と思うかもしれませんが、毎日少しずつ積み重ねることが大切です。大きなリフレッシュよりも、小さなケアの習慣化の方が、長期的なメンタルの安定につながりやすいと言われています。
「もしかしてSOSかも」と思ったら
セルフケアには限界があります。以下のような状態が2週間以上続いている場合は、一人で抱え込まず、医療機関や職場の相談窓口に声をかけてみることを検討してください。
- 朝、布団から出られないほど気力がない日が続く
- 仕事中に感情が全く動かない、または些細なことで泣けてくる
- 「消えたい」「もう何もしたくない」という考えが頭をよぎる
- 食欲が極端に落ちた、または過食が止まらない
- 睡眠が極端に乱れていて、休んでも疲れが取れない
看護師であっても、心が疲れることは当然のことです。患者さんをケアするプロフェッショナルであることと、自分自身がケアを必要とすることは、何ら矛盾しません。精神科・心療内科を受診することは「負け」でも「弱さ」でもなく、自分の心に向き合う勇気ある一歩です。
まとめ:冬を「知って」乗り越える
季節によってメンタルが揺れることは、特別なことではありません。日照不足・多死期・蓄積する疲労と悲嘆——これらが重なる冬は、看護師にとって特にメンタルが落ちやすい季節です。しかし「なぜ落ちるのか」を知るだけで、「自分がおかしいのでは」という不安が和らぎ、対処法を考えやすくなります。
朝の光を浴びる、食事を少し意識する、感情を吐き出す場を持つ、ぼーっとする時間を作る。どれも今日からできることです。そして、セルフケアで対処しきれないと感じたら、遠慮なく専門家を頼ってください。あなたが健康でいることが、患者さんにとっても、周りのチームにとっても、そして何より自分自身のためになります。この冬も、無理しすぎず、自分の心の声を聴きながら過ごしてほしいと思います。