「あの人ばかり呼んでいる」——よくある場面、あなたはどう返しますか?
「ねえ、さっきからあの人のところにばかり行ってるじゃないですか。私のことは後回しなんですか?」
こんな言葉をかけられた経験、一度はあるのではないでしょうか。多床室での勤務中、患者さんやそのご家族から「不公平だ」と感じているサインを受け取る場面は、決して珍しくありません。
忙しい業務の中で言われると、どきっとして、反射的に「そんなことはありません」と否定したくなることもあるでしょう。でも、そこで少し立ち止まってみると、相手の言葉の奥にある気持ちが見えてきます。患者さんが抱いている「自分は大切にされているだろうか」という不安——そこに寄り添うことが、こうしたクレーム対応の第一歩です。
この記事では、患者・家族から「不公平な対応をされている」と感じられた際の具体的な説明の仕方と、日頃からできる不公平感を生まない対応習慣について、現場目線でご紹介します。
なぜ「不公平感」は生まれるのか——患者の心理を理解する
まず大切なのは、「なぜ患者さんがそう感じるのか」を理解することです。入院生活とは、多くの患者さんにとって非常に不安で孤独な体験です。自由に動けない、思うようにならない、先が読めない——そんな状況の中で、「自分はちゃんと見てもらえているか」という感覚はとても重要になります。
隣のベッドの患者さんに看護師が頻繁に訪れているのを見ると、自分との差を感じてしまうのは自然なことです。特に、痛みや不安を抱えているとき、感情はより敏感になります。クレームとして表れているように見えても、その根底にあるのは「もっとかまってほしい」「不安を取り除いてほしい」という訴えであることが多いのです。
この前提を持つと、対応の仕方がガラッと変わります。「言い訳をしなければ」ではなく「この人は今、何を不安に思っているのだろう」という視点で向き合えるようになります。
クレームを受けたときの「その場での対応」——具体的な言葉のかけ方
では、実際に「なんであの人ばかり?」と言われたとき、どのように返すとよいでしょうか。ポイントは次の3ステップです。
ステップ1:まず気持ちを受け止める
最初にやってはいけないのは、すぐに「違います」と否定すること。患者さんが感じた気持ちを一度しっかり受け止めましょう。
- 「そう感じさせてしまったんですね、申し訳ありませんでした」
- 「気になっていらっしゃったんですね」
- 「ご不安な気持ち、よくわかります」
こうした言葉を先に置くだけで、相手の感情は少し落ち着きます。「わかってもらえた」という安心感が、話し合いの土台になります。
ステップ2:状況を丁寧に説明する(個人情報に配慮しながら)
気持ちを受け止めた上で、なぜそのような状況になっているかを、他の患者さんのプライバシーを守りながら説明します。具体的な病名や状態を話す必要はありません。
- 「今、処置が必要な患者さんのところに伺っていました。お待たせして申し訳ありませんでした」
- 「すべての患者さんの状態に応じて対応しています。○○さんのことも、しっかり気にかけています」
- 「何かお困りのことはありますか?今、少しお話しできますよ」
大切なのは、「あなたのことも見ていますよ」というメッセージを言葉と態度で伝えることです。説明した後は、その患者さんのそばに少し立ち止まって、状態を確認したり話を聞いたりすることで、言葉以上に「大切にされている」と感じてもらえます。
ステップ3:「次はこうします」という安心感を伝える
一度気持ちを切り替えてもらうためには、今後への見通しを伝えることも効果的です。
- 「次は○時ごろに様子を見に来ますね」
- 「何かあれば、いつでも呼んでくださいね」
- 「ナースコールを押していただければすぐに来ます」
「いつでも来てもらえる」という感覚が持てると、患者さんの不安は大きく和らぎます。
普段からできる「不公平感を生まない」対応習慣
クレームが起きてから対処するより、そもそも不公平感が生まれにくい環境をつくることが理想です。忙しい中でも取り入れやすい習慣をいくつかご紹介します。
声かけの「均等化」を意識する
多床室を巡回するとき、意識的にすべての患者さんに声をかけるようにしましょう。処置が必要な患者さんに時間を割かなければならない場面でも、通りがかりに「○○さん、大丈夫ですか?」と一言かけるだけで、「ちゃんと見てもらっている」という安心感が生まれます。
- 入室時・退室時に一言声をかける
- 廊下ですれ違ったときも笑顔で目を合わせる
- 処置の合間にも短く状態確認をする
「待たせるときは一言」を習慣にする
別の患者さんの対応で時間がかかりそうなとき、事前に「少しお待ちください」と伝えておくだけで、患者さんの受け取り方がまったく変わります。何も言わずに時間が過ぎると、「忘れられている」「後回しにされている」と感じさせてしまいます。
- 「今から○○さんの処置がありますので、その後にまいります」
- 「30分ほどかかりますが、終わり次第伺います」
- 「他のスタッフに引き継いで来てもらうこともできますが、いかがですか?」
申し送りで「気になる患者さん」を共有する
特定の患者さんが不満を感じやすい状態にあるとわかったときは、チームで情報共有することも大切です。「この患者さんは孤独感を感じやすい」「家族が来られない環境で不安が強い」といった情報を申し送りに加えることで、チーム全体で均等なケアができるようになります。個人の努力だけで抱え込まず、チームで対応することが、長期的に不公平感を防ぐカギになります。
ナースコールへの対応スピードを意識する
ナースコールへの対応が遅いと、「後回しにされている」という印象に直結します。すぐに対応できないときでも、インターホン越しに「今行きます」「少しお待ちください」と返答するだけで、患者さんの体感は大きく変わります。対応できない場合は、他のスタッフへの引き継ぎをスムーズに行う体制をチームで意識しておきましょう。
感情的になってしまいそうなときのセルフケア
「なんで私ばかり責められるんだろう」「精一杯やっているのに」——そう感じることも、あって当然です。クレームを受けたとき、特に理不尽に感じたとき、感情的になりそうになるのは人間として自然な反応です。
そんなときは、まず自分の感情を否定しないでください。「悔しい」「つらい」という気持ちは、それだけ真剣に仕事に向き合っている証でもあります。
- 一度深呼吸して、感情をクールダウンさせる
- その場では最低限の対応をして、後で先輩や同僚に話を聞いてもらう
- 「この人は今、不安なんだ」と心の中でリフレームしてみる
- クレームをチームで振り返り、次に活かす機会にする
一人で抱え込まず、チームでシェアする文化をつくることが、看護師自身のメンタルヘルスにもつながります。
まとめ——「不公平感」は信頼関係を深めるチャンスにもなる
患者さんから「不公平だ」と感じられることは、決して気持ちのよいものではありません。でも見方を変えると、それは「もっと関わってほしい」「自分のことを見ていてほしい」という訴えでもあります。
大切なのは、まず気持ちを受け止めること。そして、誠実に状況を説明し、「あなたのことも大切に思っている」というメッセージを言葉と行動で伝えること。さらに、普段から均等な声かけや「待たせるときの一言」を習慣にすることで、そもそも不満が生まれにくい関係性を築いていくことです。
クレームをうまく受け止めて誠実に対応できたとき、患者さんとの信頼関係はむしろ深まることがあります。「ちゃんと向き合ってもらえた」という体験は、患者さんの安心につながり、その後のケアにも良い影響をもたらすことがあります。
20〜30代の看護師の皆さんは、まだキャリアの途中。試行錯誤しながら、少しずつ自分なりの対応スタイルを見つけていってください。完璧でなくていい。誠実に向き合い続けることが、何よりの答えになります。